イヌに噛まれたとでも思えたなら 第2話
髪の毛をゆるく巻いてアップにして後れ毛を少し出して……。
少し首回りが広めのざっくりしたニットにタイトスカートをはいて靴もおろしたてのちょっと高めのヒール。
メイクもナチュラルに見えて盛れるように調整して……。
うん!いつもスウェット、ジーンズの女にしては頑張ったほうじゃない?
鏡の前でチェックをしてバッグを持ち、家を出る。
「~今日めっちゃかわいいじゃ~ん」
「ありがと、ちょっとあざといかなって不安なんだけど……」
「大丈夫だって、ってか合コンなんだからあざとくていいの!!」
友人に褒めてもらって少し気分が上がる、お互いの服装やメイクを褒めたたえながら合コンへ参戦した。
……………あー、うん。
お店の雰囲気は悪くないし、お酒も食事も美味しい、だけど。
「ちゃんみたいな子、俺すごい好みだなあ」
「あ、あはは、ありがとうございます……」
ちょっとチャラい感じの男の人が隣にいる、ってかずっと隣を死守してくるしベタベタ触れてくる。
セッティングしてくれた子には悪いけど、早く抜けて帰りたい。
友人を見ると結構楽しくお酒を飲んでいる様だ、うーんどうにか穏便に一人で無難に抜けだして、家路につこう。
席を立ちトイレで友人に抜けるねとメッセージを送る、お勘定を事前に渡しておいてよかったなとホッとする。
友人からは「わかった、気を付けて帰ってね!何かあったらまた連絡して」とメッセージが来た。
席には戻らず早歩きでお店を出た、少し肌寒い空気が私の頬を撫でる。
はあ、とため息をつきながら歩く、すると急に後ろから手を掴まれた。
「あれえ? ちゃん一緒に抜けるって約束だったじゃん?」
振り向くとさっきの男性だった、お酒で酔っぱらっているのか顔が真っ赤だ。
「へ? そんな約束してないです……」
「えーそうだったけー?」
酔っぱらいすぎているのかさっきよりベタベタと肩や腕を触ってくる。
変に相手を刺激してトラブルを起こしたくないし、これはどうしたものか……と悩んでいると。
「さん?」
ポツリと私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
聞き覚えのある声に思わず「へ?」と間抜けな声が出てしまう。
「……青宗くん?」
道路沿いにバイクを停めてこっちを見ている男の子がいた、身長も伸びてすっかり大人びてはいるが青宗くんだとすぐに分かった。
「久しぶり……」
「ん、久しぶり、つかその隣の奴、何?」
私のぎこちない挨拶なんて気にも留めていない様で青宗くんは私の腕を掴んでいる男性を指さして目を細める。
さっきまで酔っぱらってたのが嘘かのように男性は青宗くんに睨まれた瞬間に真っ赤な顔は青くなっていき私の腕を離してくれた。
「あ……と、友達なんだね? 俺店に戻ってるから!」
そう言ってそそくさとお店へと帰っていった。
「あいつ何がしたかったんだよ……」
青宗君はあきれたような声で言った私は苦笑いを浮かべるしかない。
白いロングコートにブーツ、腕には赤い腕章、何より少しにらんだだけであの威圧感……。
まるで不良漫画のキャラクターみたいだ。
「あ、ありがとう、ところで青宗くんはどうしてこんなとこに……」
「ちょっとこの辺り一帯の調子乗ってるやつら締めた帰り」
「あ、あはは、なんか本当に漫画の不良みたいなこと言うね」
「漫画じゃねえよ、ちゃんと族にも入ってる」
「ええ!? 族?」
青宗くんはさも当然かのように話す。
確かに青宗くんは昔からちょっとヤンキーっぽいことが好きそうだったけど、まさか本当に暴走族に入ってるとは思っていなかった。
「てかさんこそ何の用でいたんだよ?」
「私は、その飲み会っていうか合コンっていうかー……」
別にただの友達の弟に私が合コン行ったことを話すぐらい何ともないはずなのに何故か後ろめたいような気持ちになる。
「へーさんって合コンとか行くんだ」
青宗くんはさっきの酔っぱらい男に向けたような目線を私にぶつけてくる、なんだか居心地が悪くて目線を下へ向いてしまう。
「だってもう大学生だし、彼氏ぐらい欲しいし」
「へえ、それでさっきの男に絡まれてたの?」
「ま、まあ、こういう事もあるよ、仕方ないじゃん」
「好きでもねー男にベタベタ触られてるのも仕方ない事なのか?」
青宗くんの視線が刺さる。
「それは、すっごく嫌だけど……」
嫌だけど、でも、だからってどうしたらいいか私は分からない。
「私は好きな人がいないから、だからちゃんと好きな人が欲しかったのっ! 今日の合コンは失敗だったかもしれないけど……」
ついムキになって私は青宗くんへ言い返す。ああ、いやだ……なんで私こんな事してんだろう?
「さん好きな人いねえの?好きなやつ出来た事も?」
「……っ! 無いよ!! 悪い?」
やけくそになり親友の弟相手にキレてしまう、ああもう、年下相手に大人げない。
「ふーん……」
青宗くんはなぜかそんな私を見ながらフッと優し気に笑う。
「さん」
「え?」
急に名前を呼ばれたその時、青宗くんの顔が私に近づく……あ、キスされる。そう思った瞬間――
むにっ
青宗くんのおおきな片手が私のほっぺを挟んだ。
「んむ゛っ!?」
今、私絶対間抜けな顔になっちゃってる!なんて思いながら青宗くんをにらむ。
「さすがにガキの頃みてーにいきなりキスとかしねえから安心しろよ」
「お、おびょえてひゃの?」
覚えてたの?と言いたかったが口が青宗くんの手のせいでタコみたいな口になっていて上手くしゃべれない。
「……何言ってるか全然わかんねーけど、良い顔してる」
「んむ゛ーーーー!!」
青宗くんが蕩けた笑顔を私に向けてくる、この状況で向ける表情じゃ無いと思うんだけど!?
「俺もさ、誰か好きになるってあんまり想像できないんだけど、相手がさんなら楽しいだろうなって」
「ん゛!?」
むにむにと私のほっぺを弄びながら青宗くんは穏やかな表情で目を細めて話を続ける。
「だから、俺も好きになるからさんもちゃんと俺の事好きになって」
「んん゛!?」
こてんと首をかしげて私に笑いかけた。
反則的なしぐさをされてドキッと胸は高鳴るが――
………………いや、これ別に告白……では無いよね??
私の事好きになりたいから青宗くんの事好きになれって?
青宗くんはひとしきり私の顔で遊んだことに満足したのか手を離してくれた。
「ん、じゃあ送ってくから帰ろうぜ」
「あ、ありがとう」
青宗くんのバイクの後ろに乗せてもらい私の家まで送ってくれた。
「じゃあさん、おやすみ」
「あーうん、おやすみ」
もっと色々言わなくちゃいけない事があるはずなのに私は青宗くんのペースに流されて何も言う事が出来ず、
彼の背中を見送る事しか出来なかった。